或る夜の出来事

It Happened One Night

製作年 1934年
製作 フランク・キャプラ
ハリー・コーン
脚本 ロバート・リスキン
監督 フランク・キャプラ
出演 クラーク・ゲーブル
クローデット・コルベール
 だいぶ古い1934年の映画になりますが、現代にも通じるラブ・コメディ(現代ではロマンティック・コメディと呼ばれることが多いようです)の代表作と言われている作品です。
 原作はサミュエル・ホプキンスの「夜行バス」という作品をベースに、ボーイ・ミーツ・ガールの傑作です。
 監督はフランク・キャプラ。作った作品のほとんどが傑作と言われる大監督で、『素晴らしき哉、人生!』はクリスマス時期になるとアメリカでは必ずテレビ放映されるというほどのクリスマス映画の大定番を作った監督です(この作品もキリスト教的な意味合いを持つ作品です)。
 大ヒットを記録したのみならず、本作は1934年アカデミー賞の主要5部門(作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、脚色賞)全てで受賞という快挙も成し遂げます。
 主人公はクラーク・ゲーブルとクローデット・コルベールの二人。クローデット・コルベールは本作がはまり役となってコメディエンヌとして有名な女優となりました。一方の相手役はクラーク・ゲーブル。既にこの時点でスターでしたが本作でその人気は爆発。大変にファンも多く、以降対策に次々に主演しました。代表作は本作と『風と共に去りぬ』のレッド・バトラーとされています。

 あらすじは、父親に結婚を反対されたフロリダの大富豪の娘エリー(クローデット・コルベール)が、家から抜け出して(この脱出劇はとても派手で、一見の価値があります)、婚約者がいるニューヨークへと向かおうとします。しかしほとんどお金がないため、長距離バスに乗るのですが、そこで同じくニューヨークへと向かっている元新聞記者で失業中のピーター(クラーク・ゲーブル)と出会います。お互いに気が強い二人で、座席を巡って言い争いになってしまったため、最初の出会いは最悪。それでもエリーの正体を見抜いたピーターは、スクープで新聞記者に返り咲こうと考え、彼女の近くにいようとします。
ところがそのバスが大雨のために立ち往生してしまい、バスが動くまで乗員達はホテルに泊まることになります。お金のない二人は嫌々ながら夫婦を装って安宿の同じ部屋に泊まってできるだけお金を浮かそうとします。
しかしバスから降りて顔をさらしてしまったため、エリーの正体がばれてしまいます。それでバスには乗らずにヒッチハイクでニューヨークへと向かおうとし、ピーターもそれにつきあうことになります。
苦楽をともにする内、やがて二人の間には恋心が芽生えていくことになりますが、その顛末はどうぞ映画をご覧下さい。
 この作品の大ヒットは社会にも少なからず影響を与えた作品と言われています。
 途中二人でヒッチハイクをしながらニューヨークを目指すシーンで、ピーターが何度大声を出してもゼスチャーをしても誰も止まってくれなかったのを、エリーがスカートをたくし上げただけで車が止まるシーンがあります。女性のセクシーシーンの強さを強調したシーンはかなり強烈だったようで、後に様々な作品で用いられています。今でもアニメーションなどではパロティ的に用いられることがあるくらいです。
 他にもピーターが下着を着けずにカッターシャツを着るシーンがありますが、当時の男性はこぞって真似をしたお陰で下着メーカーから苦情が来たという逸話もありますね。(私もやってみたことありますが、汗っかきはこれをやってはいけないと分かりました)
 他にもヒッチハイク中、おなかがすいたピーターが畑からにんじんを拝借してかじってるシーンは、後にワーナー・ブラザースの看板キャラとなるバッグス・バニーのシーンで流用されています。まるでタバコをくわえてるようににんじんをかじるキャラクター描写はここから来ています。
 本作のキリスト教的要素は実は一つだけしかありません。
 バスが雨で立ち往生してしまい、安宿でピーターとエリーが泊まるシーン。二人は新婚夫婦と偽っているため、ベッド一つだけの部屋に案内されてしまいます。お互いのプライドを保とうと一計を案じたピーターは部屋の真ん中にロープを張って、そこに毛布を吊してベッドを二分割し、二人分のスペースを確保します。その際、この毛布を「ジェリコの壁」と称します。
 このジェリコの壁というのは旧約聖書ヨシュア記に出てきます。日本語聖書は原語に近いので、これを「エリコの壁」と言います。
 エリコの壁にまつわる話はヨシュア記6章にあります。
 エジプトを出発してから40年もの荒野での彷徨いの後、モーセの死の後でイスラエルの民はヨシュアに率いられてようやく約束されたカナンの地に入れるようになりました。
 ただし、そこには既に異民族の人々たちが住んでいます。争いが絶えない場所ですので、それぞれの都市は住民を守るための城塞を持っています。中でもエリコは難攻不落と言って良い巨大な城塞で町を守っていました。
 カナンに入ったイスラエルにとってはこの都市を攻略することが最初の難関でした。
 ヨシュア記2章には斥候を出し、エリコの場内に潜入させたところ、見つかってしまってラハブという女性の家に身を隠して難を逃れたエピソードもありますが(ラハブはダビデ王の先祖で、マタイによる福音書1章にも名前が挙がっています)、イスラエルがヨルダン川を越えたことが分かったエリコの住民は完全武装でイスラエルの攻撃に備えていました。

 そしてイスラエル人たちの前に立ちふさがったのがエリコの城塞です。難攻不落の城壁の攻略には不思議な方法がとられています。
 ヨシュア記6章3節以下には、「あなたたち兵士は皆、町の周りを回りなさい。町を一周し、それを六日間続けなさい。 七人の祭司は、それぞれ雄羊の角笛を携えて神の箱を先導しなさい。七日目には、町を七周し、祭司たちは角笛を吹き鳴らしなさい。彼らが雄羊の角笛を長く吹き鳴らし、その音があなたたちの耳に達したら、民は皆、鬨の声をあげなさい。町の城壁は崩れ落ちるから、民は、それぞれ、その場所から突入しなさい。」という神様の言葉があります。
 難攻不落のエリコの城塞を破壊したのは他でもない。角笛(ラッパ)の音だったのです。

 この映画の劇中、ピーターが部屋を仕切るために毛布を掛けた際、「ジェリコの壁」と言っていましたが、これは「決してそこは越せない」という、聖書を知っている人だけが分かる言葉だったわけです。
 ラストシーン、晴れて結婚を決めたピーターとエリーが泊まったホテルは外観しか出ていませんが、そこでラッパの音が鳴り響きます。何が起こったのかは聖書を知っている人にはよく分かるシーンです。

 「角笛が鳴り渡ると、民は鬨の声をあげた。民が角笛の音を聞いて、一斉に鬨の声をあげると、城壁が崩れ落ち、民はそれぞれ、その場から町に突入し、この町を占領した。」ヨシュア記6章20節
 この「ジェリコの壁」という言葉はこの映画で有名になり、いくつものの映画やテレビなどでも引用されています。有名なところでは日本ではテレビアニメーション作品「新世紀エヴァンゲリオン」で引用されています。
 いろいろな意味で話題作となった作品でした。